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この記事の要点 — 猫のすりすり(アロルービング)は「物への匂いづけ」と「個体への匂いづけ」が同じ「マーキング」という言葉で語られがちですが、フェロモン研究では機能が分かれている可能性が指摘されています。多頭飼育での意味、急にしなくなったときの見方まで解説します。愛猫が脚にぐりぐりと体をこすりつけてきたとき、「これは甘えている証拠」となんとなく理解している方は多いと思います。ですが「なぜ物にもこすりつけるのか」「猫同士のすりすりは何を意味するのか」「急にしなくなったら心配すべきか」まで、腑に落ちる説明に出会えた方は少ないのではないでしょうか。
Flowens Catは関東7・中部3の全国10拠点で9品種を育てる専門ブリーダーで、子猫が生まれたときから毎日のお世話の中で触れています。
この記事では、すりすりの基本的な理由をさっと押さえたうえで、「物への匂いづけ」と「個体への匂いづけ」がなぜ同じ行動に見えて実は別物かもしれないのかという一歩踏み込んだ話、そしてしつこいときの対処法まで、研究データをもとに解説します。
猫のすりすり(アロルービング)とは?基本の理由をまず整理

猫のすりすりは動物行動学で「アロルービング(allorubbing)」と呼ばれ、主にマーキング・愛情表現・挨拶・おねだりという4つの目的が絡み合った行動です。
まずはよく知られている基本を、表で簡潔に整理しておきます。
| 目的 | 具体的な状況 |
|---|---|
| マーキング(匂いづけ) | 家具の角、玄関、来客の脚など「自分の匂い」を残したい場所 |
| 愛情表現・信頼 | 飼い主の脚や手にゆっくりこすりつけ、目を細める |
| 挨拶 | 帰宅直後、久しぶりに会った瞬間に一度だけこすりつける |
| おねだり・要求 | 食事の前、鳴き声を伴いながら何度も繰り返す |
「物にこすりつける」と「人にこすりつける」は本当に同じ行動なのか

多くの解説サイトは、物への匂いづけと人・猫への匂いづけをまとめて「マーキング」の一言で説明しますが、フェロモン研究では機能が分かれている可能性が指摘されています。
Pageat & Gaultier(2003年、Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice 33(2):187-211、PMID: 12701508)は、猫の顔面フェロモンが単一のものではなく、複数の「分画(フラクション)」に分かれて存在し、それぞれが対象や状況に応じて使い分けられている可能性を報告しています。つまり「頬をこすりつける」という一つの行動の中にも、実際には複数の異なる化学的シグナルが含まれているかもしれない、ということです。
この分画のひとつであるF3分画については、Gunn-Moore & Cameron(2004年、Journal of Feline Medicine and Surgery 6(3):133-138、PMID: 15135349)が合成フェロモン製品の臨床研究で扱っており、当サイトの猫の頭突きの意味でも紹介した通り、なわばりの安定化・安心シグナルに関わる分画として理解されています。一方で、個体(人や他の猫)にこすりつける際に主に働くとされる部位は頬腺や側頭腺で、こちらは社会的な絆づけとの関連が指摘されています。
ここで正直にお伝えしておきたいのは、「物への匂いづけ」と「個体への匂いづけ」が完全に別々の機能として実証されているわけではない、という点です。研究段階の知見であり、まだ解明の途上にあります。ただし、少なくとも「同じフェロモンが同じ目的で使われている」と単純化してしまうのは、現時点の研究をやや粗く要約しすぎている可能性がある、ということは言えそうです。家具の角に繰り返し体をこすりつける猫と、飼い主にだけ熱心にすりすりする猫とでは、行動の「質感」が違って見えることがあります。こうした違いは、使われているシグナルがそもそも異なる可能性を示唆しているのかもしれません。
たとえばノルウェージャンフォレストキャットは、家具の角や柱への「物へのすりすり」がとても几帳面な子が多い印象です。一方で人に対する積極的なすりすりは控えめで、慣れるまで少し時間がかかる子も珍しくありません。この「物への匂いづけは熱心だが人へは控えめ」という組み合わせを見ていると、両者が本当に別のスイッチで動いているのかもしれない、と感じさせられます。対照的にラガマフィンは物への匂いづけよりも、人の脚や膝への「個体への匂いづけ」を明らかに好む子が多く、家具にはさほど執着しません。同じ「すりすり」という行動でも、どちらの対象に重心を置くかが品種によってはっきり分かれるように見えるのも、興味深いところです。
すりすりされる人・されない人の違い——実践的なコツ

猫がすりすりしやすいのは「猫のペースを尊重してくれる相手」であり、性格そのものより関わり方の違いが大きく影響します。
猫を見るとすぐに手を伸ばして撫でようとする人より、視線を合わせすぎず、猫の方から近づいてくるのを待てる人の方が、結果的にすりすりされやすい傾向があります。理由は単純で、すりすりは猫が「自分から匂いをつけにいく」能動的な行動だからです。先に人間側が触れてしまうと、その主導権が奪われた形になり、猫が警戒することがあります。
初めて猫を迎える方ほど「構いすぎ」になりがちですが、しゃがんで指先をそっと差し出し、猫が自分から顔を寄せてくるのを待つと、初対面でもすりすりを返してくれる子がいます。すりすりされないからといって懐いていないわけではなく、猫それぞれのペースと信頼の築き方があると捉えていただくのが実情に近いと思います。
この「待つ」姿勢は、独立心の強い子にとりわけ効果的です。無理に距離を詰めず時間をかけて接すれば、少しずつすりすりを返してくれるようになる子もいます。焦らないことが、結果的に一番の近道になります。
猫同士のすりすりが持つ「順位」との関係——研究からわかること
すりすり(アロルービング)そのものと群れ内の社会的順位を直接結びつけた研究は、今回の調査では確認できませんでした。ただし、近縁の挨拶行動である「尻尾を立てる仕草」については、順位との関連を示す研究があります。
Cafazzo & Natoli(2009年、Behavioural Processes 80(1):60-66、PMID: 18930121)は、飼い猫の群れにおける「テイルアップ(tail-up、尻尾を立てて近づく挨拶行動)」を観察し、順位の低い個体ほど頻繁にテイルアップを見せ、順位の高い個体がそれをより多く受け取るという相関を報告しています。これはすりすり自体を扱った研究ではないため、両者をそのままイコールで結ぶことはできませんが、猫の挨拶・親和行動全般に群れの中の力関係が影響しているらしい、という関連知見として押さえておく価値はあります。
多頭飼育でも、新しい子猫を既存の群れに迎え入れる際に、既存猫のほうから新入りに積極的にすりすりを繰り返すことがあります。これは威嚇でも攻撃でもなく、「新しいメンバーを群れの匂いで包み込む」行動と考えられます。数日かけて群れ全体の匂いが均されていくと、猫たちの緊張が和らいでいくことがあります。多頭飼育を検討されている方にとって、新入り猫へのすりすりは「受け入れが進んでいるサイン」として安心材料になると思います。群れに馴染むまでのペースは、猫によって異なります。
帰宅時・再会時のすりすりは「愛着行動」の一部

飼い主の帰宅時や久しぶりの再会時に見せるすりすりは、単なる習慣ではなく、猫が飼い主を安心できる存在として認識している愛着行動の表れと考えられています。
Vitale, Behnke & Udell(2019年、Current Biology 29(18)、PMID: 31550468)の研究では、猫の約65%が飼い主に対して安定した愛着を示すことが報告されており、飼い主との再会場面での行動がその愛着の指標として扱われています。すりすりが再会の挨拶として起こりやすいのも、この愛着の枠組みで説明できる部分があります。この研究の詳しい内容や、猫の「甘えん坊度」との関係については猫が甘えん坊な理由と甘えん坊な猫種で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
品種ですりすりの多さは変わる?

すりすりの頻度や強さは、品種の違いよりも、一頭一頭の性格と人との関係で大きく変わります。
食事前や遊びの前に、鳴き声を伴いながら繰り返しすりすりしてくる子もいれば、時間をかけて信頼を築いてから、ゆっくり体を預けてくる子もいます。同じ品種の兄弟でも、すりすりの多さは違います。より詳しい性格の違いは品種一覧もご参照ください。
すりすりがしつこい・急にしなくなった——見方と対処
すりすりが激しくなる、あるいは急に止まる場合は、環境の変化や体調のサインである可能性を考えてみましょう。
すりすりが普段よりしつこい場合、多くは「かまってほしい」「お腹が空いた」といった要求の強まりです。鳴き声を伴いながら何度も繰り返す場合は、少し時間を取って構ってあげる、あるいは食事のタイミングを見直すことで落ち着くことがほとんどです。もともと要求型・密着型のすりすりが出やすい子では、この「しつこさ」が個性の範囲であることも多いので、まずはその子のふだんの様子と比べて見てあげてください。
一方で、いつもすりすりしていた猫が急にしなくなった場合は、まず環境に変化がなかったかを振り返ってみてください。模様替え、新しい家具、来客の増加など、匂いの変化に敏感な猫はストレスを感じてすりすりの頻度が下がることがあります。それに加えて、食欲不振・元気消失・毛づくろいの減少などが同時に見られる場合は、体調不良のサインである可能性も否定できません。すりすりをしなくなったこと自体を診断根拠にはできませんが、他の行動変化とあわせて注意深く見守り、気になる場合は早めにかかりつけの動物病院へ相談することをおすすめします。
すりすりは信頼の積み重ねで育つ

毎日やさしく触れられて育った子猫は、最初は警戒して距離を取っていても、少しずつ指先に鼻を近づけ、やがて頬を寄せてくるようになります。人見知りの少ない子は、この変化が早く訪れることもあります。
多頭の環境で新しい子が群れに加わるとき、既存の猫たちが代わる代わる体をこすりつけていくことがあります。すりすりは単なる愛情表現を超えて、猫たちの社会をつなぐ大切な仕組みなのだと考えられます。お迎え後のご家庭でも、新しい家族に対して猫からすりすりが返ってきたときは、その子があなたを「安心できる存在」として受け入れ始めた証拠と受け取っていただいて良いと思います。
よくある質問
Q. 猫がすりすりしてくるのはなぜですか?
A. マーキング(匂いづけ)、愛情表現、挨拶、おねだりという複数の目的が絡み合っています。頬・顎・額・尻尾のつけ根などのフェロモン腺を使い、対象に自分の匂いを残す行動です。物へのすりすりと人へのすりすりは、研究段階ではありますが機能が異なる可能性が指摘されています。 Q. すりすりされる人とされない人の違いは何ですか?
A. 猫のペースを尊重できるかどうかが大きく関わっています。無理に触ろうとせず、猫が自分から近づいてくるのを待てる人ほどすりすりされやすい傾向があります。独立心の強い子は慣れるまで時間がかかる分、信頼を得たときのすりすりがより特別なものに感じられます。されないからといって懐いていないわけではありません。
Q. 猫同士のすりすりは順位と関係がありますか?
A. すりすり自体を順位と結びつけた研究は今回の調査では確認できていません。ただし近縁の挨拶行動であるテイルアップ(尻尾を立てる仕草)については、順位の低い猫ほど頻繁に見せるという研究報告があります。多頭飼育での新入り猫へのすりすりは、群れへの受け入れが進むサインとして観察されます。 Q. すりすりを急にしなくなりました。心配すべきですか?
A. 環境の変化によるストレスが原因であることが多いですが、食欲不振や元気消失など他の症状を伴う場合は体調不良の可能性も考えられます。すりすりの有無だけで判断せず、他の行動もあわせて観察し、気になる場合はかかりつけの動物病院にご相談ください。
Q. すりすりしない猫は懐いていないのですか?
A. そうとは限りません。個体差が大きく、すりすりが多い子もいれば、控えめな子もいます。すりすり以外の方法(近くにいる、ゆっくりまばたきをするなど)で愛情を示す猫も多くいるので、焦らず、その子なりの表現方法を見つけてあげてください。
まとめ
猫のすりすり(アロルービング)は、マーキング・愛情表現・挨拶・おねだりが複雑に絡み合った行動です。「物への匂いづけ」と「個体への匂いづけ」は同じ「マーキング」という言葉で語られがちですが、フェロモン研究では機能が分かれている可能性が指摘されており、まだ解明の途上にある領域です。すりすりの頻度や質感は一頭一頭で違い、頻繁にする子もいれば、時間をかけて信頼を示す子もいます。多頭飼育では新入り猫への受け入れサインとしても観察できます。
行動学シリーズとして、猫の頭突きの意味・猫のふみふみの意味・猫が甘えん坊な理由もあわせてお読みください。
すりすりや頭突きが得意な甘えん坊の子猫をお探しなら、Flowens Catの子猫一覧をぜひご覧ください。
※ 記事内の画像はイメージです。実際にお迎えいただける子猫の写真は子猫一覧でご覧いただけます。








