この記事の要点 — 猫のすりすり(アロルービング)は「物への匂いづけ」と「個体への匂いづけ」が同じ「マーキング」という言葉で語られがちですが、フェロモン研究では機能が分かれている可能性が指摘されています。品種別の傾向、多頭飼育での意味、急にしなくなったときの見方まで、Flowens Catの現場観察とあわせて解説します。愛猫が脚にぐりぐりと体をこすりつけてきたとき、「これは甘えている証拠」となんとなく理解している方は多いと思います。ですが「なぜ物にもこすりつけるのか」「猫同士のすりすりは何を意味するのか」「急にしなくなったら心配すべきか」まで、腑に落ちる説明に出会えた方は少ないのではないでしょうか。
Flowens Catは関東5・中部3の全国8拠点で、常時140頭前後(2026年7月時点)の猫を管理する専門ブリーダーです。9品種を継続飼育しており、複数のスタッフが社会化期(生後5〜8週齢)から毎日子猫にハンドリングを行うなかで、すりすり・頭突き・ふみふみといった愛着行動が育っていく過程を日常的に観察できる立場にあります。
この記事では、すりすりの基本的な理由をさっと押さえたうえで、「物への匂いづけ」と「個体への匂いづけ」がなぜ同じ行動に見えて実は別物かもしれないのかという一歩踏み込んだ話、そして品種別の傾向まで、研究データと現場観察を組み合わせて解説します。
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猫のすりすり(アロルービング)とは?基本の理由をまず整理

猫のすりすりは動物行動学で「アロルービング(allorubbing)」と呼ばれ、主にマーキング・愛情表現・挨拶・おねだりという4つの目的が絡み合った行動です。
まずはよく知られている基本を、表で簡潔に整理しておきます。
| 目的 | 具体的な状況 |
|---|---|
| マーキング(匂いづけ) | 家具の角、玄関、来客の脚など「自分の匂い」を残したい場所 |
| 愛情表現・信頼 | 飼い主の脚や手にゆっくりこすりつけ、目を細める |
| 挨拶 | 帰宅直後、久しぶりに会った瞬間に一度だけこすりつける |
| おねだり・要求 | 食事の前、鳴き声を伴いながら何度も繰り返す |
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「物にこすりつける」と「人にこすりつける」は本当に同じ行動なのか

多くの解説サイトは、物への匂いづけと人・猫への匂いづけをまとめて「マーキング」の一言で説明しますが、フェロモン研究では機能が分かれている可能性が指摘されています。
Pageat & Gaultier(2003年、Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice 33(2):187-211、PMID: 12701508)は、猫の顔面フェロモンが単一のものではなく、複数の「分画(フラクション)」に分かれて存在し、それぞれが対象や状況に応じて使い分けられている可能性を報告しています。つまり「頬をこすりつける」という一つの行動の中にも、実際には複数の異なる化学的シグナルが含まれているかもしれない、ということです。
この分画のひとつであるF3分画については、Gunn-Moore & Cameron(2004年、Journal of Feline Medicine and Surgery 6(3):133-138、PMID: 15135349)が合成フェロモン製品の臨床研究で扱っており、当サイトの猫の頭突きの意味でも紹介した通り、なわばりの安定化・安心シグナルに関わる分画として理解されています。一方で、個体(人や他の猫)にこすりつける際に主に働くとされる部位は頬腺や側頭腺で、こちらは社会的な絆づけとの関連が指摘されています。
ここで正直にお伝えしておきたいのは、「物への匂いづけ」と「個体への匂いづけ」が完全に別々の機能として実証されているわけではない、という点です。研究段階の知見であり、まだ解明の途上にあります。ただし、少なくとも「同じフェロモンが同じ目的で使われている」と単純化してしまうのは、現時点の研究をやや粗く要約しすぎている可能性がある、ということは言えそうです。Flowens Catの現場観察でも、家具の角に繰り返し体をこすりつける猫と、飼い主にだけ執拗にすりすりする猫とでは、行動の「質感」が違って見えることがよくあります。前者は淡々と、後者は鳴き声や目を細める仕草を伴いながら――こうした違いは、使われているシグナルがそもそも異なる可能性を示唆しているように感じます。
たとえばノルウェージャンフォレストキャットは、家具の角や柱への「物へのすりすり」がとても几帳面な子が多い印象です。一方で人に対する積極的なすりすりは控えめで、慣れるまで少し時間がかかる子も珍しくありません。この「物への匂いづけは熱心だが人へは控えめ」という組み合わせを見ていると、両者が本当に別のスイッチで動いているのかもしれない、と感じさせられます。対照的にラガマフィンは物への匂いづけよりも、人の脚や膝への「個体への匂いづけ」を明らかに好む子が多く、家具にはさほど執着しません。同じ「すりすり」という行動でも、どちらの対象に重心を置くかが品種によってはっきり分かれるように見えるのも、興味深いところです。
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すりすりされる人・されない人の違い——実践的なコツ

猫がすりすりしやすいのは「猫のペースを尊重してくれる相手」であり、性格そのものより関わり方の違いが大きく影響します。
猫を見るとすぐに手を伸ばして撫でようとする人より、視線を合わせすぎず、猫の方から近づいてくるのを待てる人の方が、結果的にすりすりされやすい傾向があります。理由は単純で、すりすりは猫が「自分から匂いをつけにいく」能動的な行動だからです。先に人間側が触れてしまうと、その主導権が奪われた形になり、猫が警戒することがあります。
Flowens Catの見学対応でも、初めて猫を迎える方ほど「構いすぎ」になりがちですが、しゃがんで指先をそっと差し出し、猫が自分から顔を寄せてくるのを待つと、初対面でもすりすりを返してくれる子が多いです。すりすりされないからといって懐いていないわけではなく、猫それぞれのペースと信頼の築き方があると捉えていただくのが実情に近いと思います。
この「待つ」姿勢がとりわけ効果を発揮するのが、ブリティッシュショートヘアのように独立心の強い品種です。頭突き・ふみふみの記事でも触れた通り、この品種は頻度そのものが控えめですが、無理に距離を詰めず時間をかけて接した見学者様には、後日「数ヶ月かけてやっとすりすりしてくれるようになりました」というご報告をいただくこともあります。焦らないことが、結果的に一番の近道になる品種と言えます。
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猫同士のすりすりが持つ「順位」との関係——研究からわかること
すりすり(アロルービング)そのものと群れ内の社会的順位を直接結びつけた研究は、今回の調査では確認できませんでした。ただし、近縁の挨拶行動である「尻尾を立てる仕草」については、順位との関連を示す研究があります。
Cafazzo & Natoli(2009年、Behavioural Processes 80(1):60-66、PMID: 18930121)は、飼い猫の群れにおける「テイルアップ(tail-up、尻尾を立てて近づく挨拶行動)」を観察し、順位の低い個体ほど頻繁にテイルアップを見せ、順位の高い個体がそれをより多く受け取るという相関を報告しています。これはすりすり自体を扱った研究ではないため、両者をそのままイコールで結ぶことはできませんが、猫の挨拶・親和行動全般に群れの中の力関係が影響しているらしい、という関連知見として押さえておく価値はあります。
多頭飼育の現場で言うと、Flowens Catでは新しい子猫を既存の群れに迎え入れる際、既存猫のほうから新入りに積極的にすりすりを繰り返す様子をよく観察します。これは威嚇でも攻撃でもなく、「新しいメンバーを群れの匂いで包み込む」行動として現場では捉えています。数日かけて群れ全体の匂いが均されていくと、猫たちの緊張が和らいでいくのを繰り返し見てきました。多頭飼育を検討されている方にとって、新入り猫へのすりすりは「受け入れが進んでいるサイン」として安心材料になると思います。
品種によって、この「受け入れ側」の積極性にも違いを感じます。ペルシャはおっとりとしたマイペースな性格で、新入り猫にすぐさますりすりをしかけるタイプではなく、様子を見てから少しずつ距離を縮めていく子が多い印象です。一方でサイベリアンは人見知りが少ない分、猫同士でも早い段階から積極的にすりすりを交わし合う様子をよく見かけます(人へのすりすり傾向は後述します)。どちらが良い悪いということではなく、群れに馴染むまでのペースが品種によって異なる、という程度に捉えていただくのがよいと思います。
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帰宅時・再会時のすりすりは「愛着行動」の一部

飼い主の帰宅時や久しぶりの再会時に見せるすりすりは、単なる習慣ではなく、猫が飼い主を安心できる存在として認識している愛着行動の表れと考えられています。
Vitale, Behnke & Udell(2019年、Current Biology 29(18)、PMID: 31550468)の研究では、猫の約65%が飼い主に対して安定した愛着を示すことが報告されており、飼い主との再会場面での行動がその愛着の指標として扱われています。すりすりが再会の挨拶として起こりやすいのも、この愛着の枠組みで説明できる部分があります。この研究の詳しい内容や、猫の「甘えん坊度」との関係については猫が甘えん坊な理由と甘えん坊な猫種で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
品種による違いも感じる部分です。マンチカンは玄関先まで出迎え、鳴き声を伴いながら足元にすりすりしてくる子が多く、再会の喜びを全身で表現するタイプと言えます。一方でラグドールは玄関まで駆け寄るというより、飼い主が座った瞬間にゆっくり体を寄せてくる「もたれかかり型」の再会あいさつが多い印象です。同じ再会のすりすりでも、品種によって表現のテンポが異なります。
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品種別のすりすり傾向——Flowens Catの現場観察から

すりすりの頻度や強さには品種による傾向差があると感じますが、個体差が最優先である前提でお読みください。
すりすりに特化した傾向を、既存の頭突き・ふみふみ記事とは重ならない形で、Flowens Catが継続飼育する9品種を中心に整理しました。
| 品種 | すりすりの頻度・強さ | 現場で見えている傾向 |
|---|---|---|
| マンチカン | 多い・催促型 | 食事前や遊びの前、鳴き声を伴いながら繰り返しすりすりしてくる子が多い |
| ラガマフィン | 多い・密着型 | 体格が大きい分、押しつける力も強め。物より人への「個体への匂いづけ」を好む |
| ラグドール | 多い・密着型 | 座った瞬間にゆっくり体を寄せてくる「もたれかかり型」の甘え方 |
| サイベリアン | やや多い(新規観察) | 来客時や新しい環境で積極的。人見知りが少なくあいさつ代わりに出やすい |
| アメリカンショートヘア | 中程度(新規観察) | 頻度よりも「特定の相手への一貫性」が特徴 |
| ブリティッシュショートヘア | 少なめ | 独立心が強く、時間をかけて信頼を築いてからすりすりを返すタイプ |
| エキゾチックショートヘア | 少なめ(新規観察) | 動作はゆっくり穏やかだが、一度こすりつけると長く体を預ける |
| ノルウェージャンフォレストキャット | 物への几帳面さは高いが人へは控えめ | 家具の角への匂いづけは熱心。人への積極性は時間をかけて育つ |
| ミヌエット | データ蓄積中 | 短足の甘えん坊な気質から人への密着傾向が推測されるが、断定できる段階になく今後観察を重ねる予定 |
これらはあくまで当キャッテリーでの日々の観察に基づく傾向であり、今後もデータを蓄積しながら精度を上げていきたいと考えています。断定的な統計値ではない点をご理解のうえ、品種選びの参考程度にご覧ください。より詳しい性格の違いは品種一覧もご参照ください。
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すりすりがしつこい・急にしなくなった——見方と対処
すりすりが激しくなる、あるいは急に止まる場合は、環境の変化や体調のサインである可能性を考えてみましょう。
すりすりが普段よりしつこい場合、多くは「かまってほしい」「お腹が空いた」といった要求の強まりです。鳴き声を伴いながら何度も繰り返す場合は、少し時間を取って構ってあげる、あるいは食事のタイミングを見直すことで落ち着くことがほとんどです。前章で触れたとおり、マンチカンやラガマフィンのようにもともと要求型・密着型のすりすりが出やすい品種では、この「しつこさ」が個性の範囲であることも多いので、まずは品種の傾向を踏まえて様子を見てあげてください。
一方で、いつもすりすりしていた猫が急にしなくなった場合は、まず環境に変化がなかったかを振り返ってみてください。模様替え、新しい家具、来客の増加など、匂いの変化に敏感な猫はストレスを感じてすりすりの頻度が下がることがあります。それに加えて、食欲不振・元気消失・毛づくろいの減少などが同時に見られる場合は、体調不良のサインである可能性も否定できません。すりすりをしなくなったこと自体を診断根拠にはできませんが、他の行動変化とあわせて注意深く見守り、気になる場合は早めにかかりつけの動物病院へ相談することをおすすめします。
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Flowens Catブリーダーが見てきたすりすりのこと

社会化期にあたる生後5〜8週齢の子猫を毎日ハンドリングしていると、すりすりが育っていく過程を間近で見ることができます。最初は警戒して距離を取っていた子が、数日かけてスタッフの指先に鼻を近づけ、やがて頬を寄せてくるようになる――その変化の速さには、今でも驚かされます。とくにサイベリアンの子は人見知りが少ない分、他の品種よりも数日早くこの変化が訪れる印象があり、スタッフの間でも「もう寄ってきた」と話題になることがよくあります。
多頭施設で新しい子が群れに加わるとき、既存の猫たちが代わる代わる体をこすりつけていく様子を見ていると、すりすりは単なる愛情表現を超えて、猫たちの社会をつなぐ大切な仕組みなのだと実感します。お迎え後のご家庭でも、新しい家族に対して猫からすりすりが返ってきたときは、その子があなたを「安心できる存在」として受け入れ始めた証拠と受け取っていただいて良いと思います。
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よくある質問
Q. 猫がすりすりしてくるのはなぜですか?
A. マーキング(匂いづけ)、愛情表現、挨拶、おねだりという複数の目的が絡み合っています。頬・顎・額・尻尾のつけ根などのフェロモン腺を使い、対象に自分の匂いを残す行動です。物へのすりすりと人へのすりすりは、研究段階ではありますが機能が異なる可能性が指摘されています。品種による差もあり、たとえばノルウェージャンフォレストキャットは家具への匂いづけがとりわけ几帳面な子が多い一方、ラガマフィンは物より人への匂いづけを好む傾向があります。
Q. すりすりされる人とされない人の違いは何ですか?
A. 猫のペースを尊重できるかどうかが大きく関わっています。無理に触ろうとせず、猫が自分から近づいてくるのを待てる人ほどすりすりされやすい傾向があります。ブリティッシュショートヘアのように独立心の強い品種では慣れるまで時間がかかる分、信頼を得たときのすりすりがより特別なものに感じられます。されないからといって懐いていないわけではありません。
Q. 猫同士のすりすりは順位と関係がありますか?
A. すりすり自体を順位と結びつけた研究は今回の調査では確認できていません。ただし近縁の挨拶行動であるテイルアップ(尻尾を立てる仕草)については、順位の低い猫ほど頻繁に見せるという研究報告があります。多頭飼育での新入り猫へのすりすりは、群れへの受け入れが進むサインとして観察されます。当キャッテリーでは、人見知りが少ないサイベリアンは新入り猫にも早い段階から積極的にすりすりを交わす一方、ペルシャは様子を見てから少しずつ距離を縮めるなど、受け入れ側の積極性にも品種差を感じます。
Q. すりすりを急にしなくなりました。心配すべきですか?
A. 環境の変化によるストレスが原因であることが多いですが、食欲不振や元気消失など他の症状を伴う場合は体調不良の可能性も考えられます。すりすりの有無だけで判断せず、他の行動もあわせて観察し、気になる場合はかかりつけの動物病院にご相談ください。
Q. すりすりしない猫は懐いていないのですか?
A. そうとは限りません。品種による気質の違いや個体差が大きく、マンチカンやラガマフィンのようにすりすりが多い品種もいれば、ブリティッシュショートヘアやエキゾチックショートヘアのように控えめな品種もいます。すりすり以外の方法(近くにいる、ゆっくりまばたきをするなど)で愛情を示す猫も多くいるので、焦らず、その子なりの表現方法を見つけてあげてください。
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まとめ
猫のすりすり(アロルービング)は、マーキング・愛情表現・挨拶・おねだりが複雑に絡み合った行動です。「物への匂いづけ」と「個体への匂いづけ」は同じ「マーキング」という言葉で語られがちですが、フェロモン研究では機能が分かれている可能性が指摘されており、まだ解明の途上にある領域です。品種によってすりすりの頻度や質感には傾向差があり、マンチカン・ラガマフィン・ラグドールのように頻度の高い品種もいれば、ブリティッシュショートヘアやノルウェージャンフォレストキャットのように時間をかけて信頼を示す品種もいます。多頭飼育では新入り猫への受け入れサインとしても観察できます。
行動学シリーズとして、猫の頭突きの意味・猫のふみふみの意味・猫が甘えん坊な理由もあわせてお読みください。
すりすりや頭突きが得意な甘えん坊の子猫をお探しなら、Flowens Catの子猫一覧をぜひご覧ください。
参考文献・出典4件
- europepmc.org/article/MED/12701508
- pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18930121
- pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31550468/
- pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15135349/



