猫の頭突きは「バンティング(head bunting)」:頬のスリスリ(アロルービング)とは使うフェロモン腺が異なり、耳後方の側頭腺で愛情・信頼・マーキングを同時に表現する複合行動。多頭環境では群れの匂いを統一する社会的機能も担う。愛猫が突然おでこをぐいっと押しつけてきたとき、「これって何のサイン?」と感じたことはありませんか。
猫の頭突き——俗に「ヘッドバット」とも呼ばれ、動物行動学では「ヘッドバンティング(head bunting)」が正式名称です——は、猫のしぐさの中でも特に「意味が深い」行動のひとつです。Flowens Cat でも、子猫が人に慣れてきた証として「初めて頭突きをされました!」というご報告をお客様からよくいただきます。
この記事では、単なる「愛情表現」という結論で終わらず、フェロモン腺の部位別機能・バンティングとアロルービングの行動学的な区別・多頭施設での群れ内コミュニケーション・品種別傾向まで、データと現場の実体験を組み合わせて解説します。
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「頭突き」「ヘッドバット」「バンティング」——正確な用語を押さえる

猫の頭突き行動の正式な動物行動学用語は「ヘッドバンティング(head bunting)」です。日本語サイトに多い「ヘッドバンピング(head bumping)」は誤り、または俗称に留まります。
| 呼び名 | 種別 | 正確さ |
|---|---|---|
| ヘッドバット(head butting) | 俗称・一般的な通称 | 検索用語として広く使われるが行動学用語ではない |
| ヘッドバンピング(head bumping) | 誤記・俗称 | 日本語ウェブで多く使われるが正式用語ではない |
| ヘッドバンティング(head bunting) | 動物行動学の正式用語 | Brown & Bradshaw 2014、Atkinson 2018 が使用 |
Flowens Cat では関東5・中部3の全国8拠点で複数品種を継続飼育しており、猫同士・猫と人の頭突き行動を日常的に観察できる立場にあります。以下の解説は、この現場観察と動物行動学の文献を組み合わせたものです。
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「バンティング」と「アロルービング」は何が違う?——動物行動学の定義

頭を当てる「バンティング(bunting)」と体側を擦りつける「アロルービング(allorubbing)」は、使うフェロモン腺の部位が異なる別々の行動です。
多くのサイトでは「頭突きとスリスリは同じ意味の関連行動」と説明します。これは大枠で正しいのですが、動物行動学の観点ではより精確な区別があります。
- バンティング(head bunting): 猫が頭部を相手に直接当てる行動。主に耳後方の「側頭腺(temporal gland)」からフェロモンを塗布する。Brown & Bradshaw(2014年、The Domestic Cat, Cambridge University Press)は「頭部エリアが優先される(head area was preferred)」と記述している
- アロルービング(allorubbing): 顔・体側面・尻尾を相手に擦りつける行動。側頭腺以外に、頬腺(cheek gland)や尾根部腺も使われる
両者は同じ「匂いをつけて社会的絆を示す」目的で行われますが、当てる部位と使われるフェロモン腺が異なります。Atkinson(2018年、Practical Feline Behaviour, CABI Publishing)はアロルービングを「社会的結束のためのscent profile統一機能がある行動」と位置づけています。
日常会話では「頭突き」「スリスリ」で十分ですが、「なぜ頭で当てることに意味があるのか」を理解するには、この区別が重要です。
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猫の頭部フェロモン腺は「1か所」ではない——4腺の部位と機能

猫の頭部にはフェロモン分泌腺が少なくとも4箇所あり、それぞれ機能が異なります。「側頭腺が1か所あるだけ」という説明は不十分です。
多くのサイトが「眉と耳の間にある側頭腺」とだけ説明していますが、実際の分布はより複雑です。
| 腺の名称 | 位置 | 主な機能 | バンティング時の関与 |
|---|---|---|---|
| 側頭腺(temporal gland) | 耳後方〜側頭部 | 個体識別・社会的絆のマーキング | 主役:バンティングで直接使われる |
| 頬腺(cheek gland) | 頬〜口角周辺 | なわばり安定化・安心シグナル | 副次:顔こすりつけ(アロルービング)で主役 |
| 頤腺(おとがい腺、chin gland) | 下あご先端 | なわばりマーキング | バンティングよりスリスリ系で多用 |
| 眉間腺(supraorbital gland) | 眉間〜額 | 社会的絆・個体識別 | バンティングで側頭腺と協働することがある |
市販の猫用安心フェロモン製品が模倣しているのは主に頬腺由来の「F3分画(顔面フェロモンの第3分画)」です。Gunn-Moore & Cameron(2004年、J Feline Med Surg 6(3):133-8, PMID: 15135349)では、合成F3フェロモン(フェリウェイ)がマーキング行動の抑制に一定の効果を示したと報告されています(2004年データ)。バンティングで使われる側頭腺フェロモンとは構成が異なる点に注意が必要です。
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バンティングの「強さ」でわかる気持ちの違い
バンティング(匂いをつけるための軽い接触)と強い押し込み(感情が高まった状態)は、強度と動機に違いがあります。
| 強さ・様子 | 行動学的な読み取り | 対応のコツ |
|---|---|---|
| 軽くそっと額をくっつける | バンティング本来の姿:匂い付け+挨拶 | 優しく頬や額を撫でて返す |
| ぐいっと強めに押しつけて離れない | 感情が高まった強い甘え・愛情 | 一緒に遊んだり撫でたりして応える |
| 何度も繰り返しゴンゴン押しつける | 要求行動:食事・遊び・構いの催促 | 少し長めに構う;要求が強い場合は落ち着かせる |
| 家具・壁角に額を擦りつける | なわばりマーキング(対象が人でなく物) | 環境変化や新しい匂いがないか確認 |
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多頭環境での頭突き——「群れの匂いを統一する」社会的機能

猫同士の頭突き・アロルービングは「群れ全員が同じ匂いを持つ」scent profile(匂いの統一像)を形成する社会的機能があります。単なる挨拶を超えた「群れの結束維持行動」です。
一般的なサイトでは「猫同士の頭突きは仲の良いサイン」と説明されます。これは正しいですが、なぜ匂いを統一することに意味があるのかまで踏み込んでいません。
Atkinson(2018年、Practical Feline Behaviour)によると、猫は群れ内でアロルービングを繰り返すことで「group scent(群れの共通の匂い)」を作り出します。この共通の匂いが「自分たちのグループのメンバー」を識別する合言葉として機能し、見知らぬ猫や外からの侵入を察知する際の基準にもなります。
Flowens Cat の多頭施設での観察から言うと、新しい子猫を既存の群れに導入した最初の数日は、既存猫が新入りに対して積極的なアロルービング(体側のスリスリ)を繰り返す様子がよく見られます。これは攻撃でも威嚇でもなく、「新しいメンバーを群れの匂いで包む」行動と解釈できます。バンティングが先に出るか、アロルービングが先かは個体差がありますが、数日で群れ全体のscent profileが統一されると、猫たちが落ち着いてくるのを現場で繰り返し観察しています。
多頭飼育を始めたばかりの方は、新入り猫が既存猫に頭をこすりつけられている場面を「いじめでは?」と心配されることがあります。バンティングやアロルービングに加えて、アログルーミング(毛づくろいし合い)が出てきていれば、受け入れが進んでいる良いサインです。
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お迎え後いつから頭突きが始まる?——Flowens Cat の観察データ

お迎え後に初めて頭突きを受けるタイミングは、環境への適応速度によって大きく異なります。Flowens Cat のお客様報告では、多くの子猫が「お迎え後1〜2週間以内」に初バンティングを見せています。
よくある疑問として「うちの子はまだ頭突きをしてこない。嫌われているの?」というものがあります。これは嫌われているサインではなく、環境への適応がまだ進んでいない段階であることがほとんどです。
Flowens Cat が受け取るお客様からの報告では、パターンとして以下の傾向が見られます:
- お迎え後3〜7日: まだ警戒心が強く、自分から接触を求めてこない。この段階での無理なスキンシップは逆効果
- お迎え後7〜14日: 環境に慣れ始めると、飼い主の足元や膝にそっと額を当ててくるようになる子が出始める
- お迎え後2〜4週: ほとんどの子猫でバンティングやアロルービングが定着し、「自分の場所だ」という認識が固まる
社会化期(生後5〜8週齢)に充分なハンドリングを受けた子猫は、お迎え後の適応が早い傾向があります。Flowens Cat の各施設では、この社会化期間中に複数スタッフが毎日子猫と接することで、人への信頼感を早期に形成するよう努めています。
「初めて頭突きをされた!」という嬉しい報告が届くたびに、当キャッテリーとしてこの上ない喜びを感じます。それは単なるしぐさではなく、子猫がその家族を「本物の仲間だ」と認識した証明だからです。
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オスとメス、去勢・避妊の影響は?
バンティングの頻度は性別そのものより、個体の気質と幼少期の社会化による差のほうがはるかに大きいです。ただし去勢前後で目的に変化が出ることがあります。
去勢前のオス猫は縄張り意識が強いため、マーキング目的のバンティングが多くなる傾向があります。去勢後はホルモンの影響が落ち着き、純粋に愛情表現としてのバンティングに移行することが多いです。
メス猫は発情期前後に顔こすりつけ(アロルービング)が増えることがあります。避妊手術後は発情に関連したスリスリ行動が落ち着きますが、愛情表現としてのバンティングはそのまま続きます。
Flowens Cat で長年繁殖に携わってきた実感では、「去勢・避妊前は縄張りマーキング色が強く、術後は純粋な愛情表現として定着する」という変化が多くの猫で見られます。
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品種別の頭突き傾向——ラガマフィンが突出して多い理由
品種によって頭突き・スリスリの頻度と強さには明確な傾向の差があります。これは性格特性と体格の両方が影響しています。
頭突きが多い傾向の品種
- ラガマフィン:Flowens Cat で扱う品種の中でバンティング頻度が最も高い。「犬のような猫」と言われるほど人懐っこく、体格も大きいため押しつけの力も相応。初見の飼い主様が驚くほどの「ゴン!」という接触になることもある
- ラグドール:積極的なバンティングより「もたれかかり」型の愛情表現が特徴的。強い押しつけよりも、飼い主の腕や膝にそっと頭をのせるスタイルが多い
- マンチカン:食事前・遊び前など要求系のバンティングが多く、目的が明確な子が多い。繰り返し押しつけてアピールする様子がよく見られる
控えめな傾向の品種
- ブリティッシュショートヘア:独立心があり、頻度は低めだが、したときは本物の信頼のサイン。「高品質な愛情」という表現が当てはまる
- ノルウェージャンフォレストキャット:マイペースで落ち着いた性格。撫でられることは好きだが、自分から積極的にバンティングをする場面は少なめ
品種別の詳しい性格については品種一覧もご参照ください。
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ヘッドプレッシングとの見分け方——受診が必要なケースのチェックリスト

「頭突き(バンティング)」と「ヘッドプレッシング」はまったく別の行動です。後者は神経疾患の重篤なサインである可能性があり、見分けることが重要です。
通常のバンティング(愛情表現)
- 飼い主や他の猫に対して行う
- 当てた後、顔を上げて目を合わせたり離れたりする
- 食事・遊び・撫でられた後などに多い
- 繰り返すが、合間に普通の行動がある
緊急受診を要するヘッドプレッシングのサイン
以下が1つでも該当する場合は、愛情表現の頭突きではなく、神経系の異常を示す可能性があります。
- 頭を壁・床・家具に押しつけて離れない(離れようとしない)
- 同時に体がふらつく・まっすぐ歩けない
- 旋回行動(同じ方向にぐるぐる回る)を繰り返す
- 眼球が揺れる(眼振)・目の焦点が合わない
- 意識が朦朧としている・呼びかけに反応が薄い
- ホルナー症候群の症状(片方の目が細い・瞳孔の大きさが左右で違う)
これらは前庭疾患・脳腫瘍・中毒・重篤な感染症のサインである可能性があります。「いつもと違う頭の動き」を感じたら、早めに猫の健康トラブルと対処法をご確認のうえ、かかりつけ獣医師への相談を検討してください。
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よくある質問
Q. 猫の頭突きとスリスリは同じ意味ですか?
厳密には異なります。動物行動学では、頭を当てる「バンティング(head bunting)」は主に側頭腺フェロモンを使い、体側を擦りつける「アロルービング(allorubbing)」は頬腺・体側腺が中心です。どちらも「愛情表現+フェロモンマーキング」という目的は共通ですが、使われる腺と接触部位が異なります。
Q. 頭突きをしてくる猫にはどう返せばいいですか?
おでこをそっと当て返す(人側からのバンティング)のが最も猫に伝わりやすい返し方です。猫にとって「同じ言語で返してもらえた」という安心感があります。頭・額・頬を優しく撫でるのも有効です。無理に長時間触り続けず、猫のペースに合わせることが大切です。
Q. 猫が頭突きをしながら噛んでくることがあります。攻撃ですか?
攻撃ではなく「興奮・愛情が高まりすぎた状態」です。バンティングで感情が高まり、そのままアグレッション(甘噛み)に移行するパターンは珍しくありません。嫌な場合は静かにその場を離れ、興奮が落ち着いてから再度接触しましょう。猫の甘噛みの意味もあわせてご参照ください。
Q. 頭突きをしない猫は懐いていないのですか?
そうとは限りません。ブリティッシュショートヘアのように独立心の強い品種は頻度が低い傾向があります。また個体の気質・幼少期の社会化・環境などによっても頻度は大きく変わります。バンティングをしなくても、近くにいる・目を細める・ゴロゴロ鳴らすなど他の方法で愛情を表現する猫も多いです。
Q. 猫がお迎えしてから頭突きをしてきません。いつ始まりますか?
Flowens Cat のお客様報告では、多くの子猫がお迎え後1〜2週間以内に初めてバンティングを見せています。ただし環境への適応速度は個体差があり、1か月ほどかかる子もいます。まずは猫が自分から近づいてくるまで待つ姿勢が大切で、無理に触ることは逆効果です。
Q. 野良猫が頭突きをしてきました。どういう意味ですか?
野良猫からのバンティングは、相当の信頼を示す行動です。警戒している相手には絶対にしない行動なので、その猫にとって「あなたは安全な存在」と判断された証拠です。ただし野外の猫からは感染症のリスクもあるため、接触後の手洗いは忘れずに。
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まとめ
猫の頭突きは「ヘッドバンティング(head bunting)」という動物行動学の正式名称を持ち、体側を擦りつけるアロルービングとはフェロモン腺の使い方が異なります。主に側頭腺(耳後方)のフェロモンを塗布しながら愛情・信頼・マーキングを同時に表現するこの行動は、多頭環境では「群れの匂いを統一するscent profile形成」という社会的機能も担っています。
強さよりも「相手に対してする」という行動そのものが信頼の証であり、お迎え後に初めてバンティングが出た瞬間こそ、愛猫が「この人は仲間だ」と決めた瞬間です。
行動学シリーズとして、ゴロゴロ音の意味・しっぽの意味・ふみふみの意味もあわせてお読みください。
頭突きが得意な甘えん坊の子猫をお探しなら、Flowens Cat の子猫一覧をぜひご覧ください。ラガマフィンやラグドールなど、バンティングが多い品種が揃っています。









