猫がゴロゴロ音を出せるのは、家猫を含む一部のネコ科だけです。ライオンやトラ(パンテラ属)は喉の構造が異なるため、連続的には鳴らせず唸ることしかできません。生まれたての子猫は目も耳もまだ開いていない状態からゴロゴロを始めており、母猫とは「音」ではなく「振動(触覚)」で対話していると考えられています。愛猫がゴロゴロと喉を鳴らしているとき、「これはどういう気持ちなんだろう」と考えたことがある方は多いはずです。リラックス・要求・ストレス緩和・親子コミュニケーションという4つの意味の見分け方については、猫のゴロゴロの意味とは?4種類の気持ちと仕組みで詳しく解説していますので、そちらをあわせてご覧ください。
この記事ではその一歩先、「そもそもなぜゴロゴロという音が出せるのか」「なぜライオンには出せないのか」「目も耳も開いていない子猫が、なぜゴロゴロで母猫と通じ合えるのか」という、仕組み・発達生理・医学の側面を中心に解説します。ブリーダーとして日々多くの猫・子猫を観察してきた実体験と、学術的な研究をあわせてお伝えします。
先に、この記事で扱う疑問と結論を一覧にしておきます。
| 疑問 | 結論(先に一言) |
|---|---|
| ライオンはゴロゴロ音を出せる? | 出せない。連続音は不可能で、唸り・咆哮に近い音のみ |
| 子猫はいつからゴロゴロできる? | 早ければ生後0〜2日。耳が開く(生後3週ごろ)より先 |
| 耳が聞こえない子猫はどう感じ取っている? | 音ではなく、密着した体を通した振動(触覚) |
| 要求のゴロゴロに秘密がある? | 人の赤ちゃんの泣き声に近い220〜520Hzの成分を含む |
| ゴロゴロが止まったら病気のサイン? | 一因になりうる。他の症状とあわせて判断が必要 |
大型ネコ科(ライオン・トラ)はなぜ連続してゴロゴロできないのか

ライオンやトラなど、いわゆる大型ネコ科(パンテラ属)は、家猫のように途切れないゴロゴロ音を出すことができません。喉の奥にある「舌骨(ぜっこつ)」という骨の構造が、家猫とはっきり異なるためです。
2002年、オーストリア・ウィーン獣医大学のWeissengruber氏らは、ライオン・ジャガー・トラ・チーターと家猫の舌骨装置(咽頭を支える骨の連なり)を比較する研究を発表しました(Journal of Anatomy, 2002年)。この研究によれば、パンテラ属の仲間は舌骨の一部が硬い骨ではなく、伸縮する軟骨(靭帯性の構造)のままになっているという特徴を持ちます。この柔軟な構造のおかげで喉頭を大きく動かせるため、あの遠くまで届く咆哮を出せるのですが、その代わりに、喉頭の筋肉を高速かつ安定して振動させ続けることには不向きになります。
一方、家猫を含む中小型のネコ科は、舌骨がしっかりと骨化しています。喉頭の筋肉が呼吸に合わせて1秒間に約20〜30回というリズムで収縮し、吸うときも吐くときも途切れず振動を続けられるのは、この骨格の安定性があってこそです。パンテラ属が出す「うなり」に近い音は主に息を吐くときに限られると考えられており、家猫のように吸って吐いてを繰り返しながら延々と鳴らし続けることはできません。
2023年にウィーン大学のHerbst氏らが発表した研究(Science Advances, 2023年)は、家猫の喉頭内部にある「脂肪パッド」という組織が、低い周波数の振動を効率よく生み出す仕組みに関わっている可能性を示しました。この研究自体はライオンやトラを対象にしたものではありませんが、パンテラ属の喉頭が家猫とは異なる骨格・軟部組織の構造を持つことをあわせて考えると、家猫特有のこの脂肪パッド構造もまた、大型ネコ科には見られない「連続ゴロゴロ」を可能にする一因と推測できます。
| 比較項目 | 家猫を含む中小型ネコ科 | ライオン・トラなど大型ネコ科(パンテラ属) |
|---|---|---|
| 舌骨の構造 | 完全に骨化 | 一部が軟骨のまま |
| 連続的なゴロゴロ | できる(吸う・吐く両方) | できない |
| 出せる音 | 途切れないゴロゴロ | 呼気時のみの唸り・大きな咆哮 |
| 得意なこと | 長時間安定した低周波振動 | 遠くまで届く大音量の発声 |
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目も耳も開いていない子猫が、なぜゴロゴロで母猫と通じ合えるのか

生まれたての子猫は、目も耳もまだ開いていない状態からゴロゴロを鳴らし始めます。母猫との「対話」は音ではなく、体が密着することで伝わる振動(触覚)によって成立していると考えられます。
子猫がゴロゴロ音を出し始める時期はとても早く、早い子では生後0〜2日ほどで確認されることがあります。ところがこの時点で、子猫の目はまだ完全に閉じたままで、耳の穴もふさがった状態です。Flowens Catの発達データでは、目が開き始めるのは生後2週、耳が開いて音が聞こえるようになるのは生後3週が目安です(詳しい発達の経過は子猫の生後1ヶ月の成長で解説しています)。
つまり、生後数日でゴロゴロを鳴らしている子猫は、自分の出している音を「聞いて」はいませんし、母猫の鳴らすゴロゴロを「音」として認識することもできていません。それでも母猫と子猫の間でゴロゴロが「伝わる」のはなぜか。答えは、耳ではなく肌と体で感じ取っているからです。
授乳中、子猫は母猫の体に自分の体をぴったりと密着させます。ゴロゴロ音の正体は、喉頭の筋肉が高速で収縮することによって生まれる振動そのものであり、この振動は空気を伝わる「音」であると同時に、密着した体を通して直接伝わる「触覚刺激」でもあります。Flowens Catの現場で、生まれて数日の子猫が母猫の胸元に体をこすりつけながら小さくゴロゴロと震わせている様子を見ると、これは耳で聞くコミュニケーションではなく、皮膚と骨を通して伝わる振動の対話なのだと実感します。
新生子猫のこの「触覚コミュニケーション」は、母猫にとっても子猫の居場所や状態を把握する手がかりになっていると考えられています。目が開き、耳が聞こえるようになる生後2〜3週を過ぎるころには、視覚や聴覚を使ったコミュニケーションも少しずつ加わっていきますが、それ以前の期間は、触れ合いによる振動こそが親子をつなぐ唯一の言語なのです。
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要求のゴロゴロに隠された「赤ちゃんの泣き声」の周波数

猫が「ごはんちょうだい」とねだるときのゴロゴロには、普段のリラックスしたゴロゴロとは違う音の成分が混ざっています。人間の赤ちゃんの泣き声に近い周波数が含まれているためです。
2009年、イギリス・サセックス大学のMcComb氏らの研究チームは、要求時のゴロゴロ音を音響分析し、通常のゴロゴロに含まれる低い基音の上に、220〜520Hzという高めの周波数成分が重なっていることを明らかにしました(Current Biology, 2009年)。この帯域は、人間の赤ちゃんの泣き声が持つ周波数と近く、人が「無視しづらい」「どこか切実に聞こえる」と感じる音の特徴と重なります。
つまり要求のゴロゴロは、猫が意図的に赤ちゃんの声を真似ているわけではないものの、結果として人間の養育本能を刺激しやすい音響的な仕掛けを持っている、ということになります。この研究では、高周波成分が乗ったゴロゴロ音を聞いた人ほど「緊急性が高い」「無視しにくい」と評価する傾向も報告されました。
ここで飼い主として気をつけたいのは、この音についつい毎回すぐ反応してしまうと、猫にとって「鳴けば要求が通る」という学習が強化されてしまう点です。行動学的には、要求への即時対応を繰り返すほど、その行動は強められやすくなります。Flowens Catでも、ごはんの時間が近づくと部屋の外でひときわ高めのゴロゴロを響かせる子がいますが、鳴くたびに時間を無視して駆けつけるのではなく、決まった時間にごはんの用意をすることで、要求のゴロゴロが際限なくエスカレートするのを防いでいます。「可愛いから」とすぐに応えたくなる気持ちはよく分かりますが、一貫したペースを保つことが、結果的に猫にとっても安定した生活リズムにつながります。
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ゴロゴロが出ない・出せなくなる医学的な原因とは

今までよく鳴らしていた猫が、ある日から急にゴロゴロをしなくなった場合、性格や環境の変化だけでなく、喉や神経の働きに関わる医学的な要因が背景にあることも考えられます。
ゴロゴロ音は、喉頭の筋肉が神経の指令を受けて高速で収縮することで生まれる音です。そのため、以下のような部分に問題が起きると、音が小さくなったり、出せなくなったりすることが考えられます。
- 喉頭そのものの炎症・腫れ(上部気道感染症など)
- 喉頭を動かす神経の働きの低下(喉頭麻痺など)
- 強い痛みやストレスで発声に関わる筋肉がうまく働かない状態
- 呼吸そのものに負担がかかっている状態(呼吸器疾患など)
Flowens Catでは、お迎えいただく子猫一頭ごとに、獣医師による視診・触診・聴診を含む健康診断書を発行していますが、これは心肺・消化器などの全身状態を確認するためのものであり、喉頭や発声そのものを専門的に調べる検査ではありません。この線引きは猫の鳴き声の意味でもお伝えしている通りです。
以下のようなサインが同時に見られる場合は、自己判断せず早めにかかりつけの動物病院に相談することをおすすめします。
- 普段よく鳴らしていたのに、1週間以上ゴロゴロがまったく聞かれない
- 呼吸が荒い・ゼーゼーという音が混じる
- 食欲や元気の低下を伴っている
- 触られるのを痛がる、特定の場所を触ると嫌がる
- 鳴き声自体もかすれている・出にくくなっている
逆に、これらのサインがなく、単にゴロゴロの頻度が減っただけであれば、環境の変化や気分によるものであることも多く、過度に心配しすぎる必要はありません。日頃からの体調変化のチェックについては健康管理のページも参考にしてください。
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「ゴロゴロしているから大丈夫」は誤解? — 見逃したくない落とし穴

ゴロゴロ音には、痛みや不安を和らげようとする猫自身のセルフケア本能が関わっていると考えられています。ただし「ゴロゴロしている=痛くない・つらくない」と単純に受け取ってしまうのは誤解です。
手術後や体調を崩しているときに猫がゴロゴロを鳴らすことは珍しくありません。これは、低い周波数の振動が自分自身の痛みを和らげ、体の回復を助けようとする本能的な反応だと考えられています。
しかしゴロゴロは、苦痛を和らげようとする「反応」であって、苦痛そのものが存在しない証拠ではありません。特にシニア期や術後、体調を崩している時期は、ゴロゴロの有無だけで安心してしまわず、食欲・活動量・触られたときの反応・トイレの様子など、他のサインとあわせて総合的に見ることが大切です。ストレスや不調のサインを見逃さないためのチェックポイントは猫のストレスサインでもまとめています。
Flowens Catでは、体調に不安のあるお迎え後の猫について「ゴロゴロしているから大丈夫そうですね」というお声をいただくことがあります。そのようなときは必ず、食欲や動き、触られたときの反応など、他の様子もあわせて確認いただくようお伝えしています。ゴロゴロは大切なサインのひとつですが、唯一の判断材料にはしない、という姿勢が、愛猫の変化を見逃さないために重要だと日々の現場で感じています。
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よくある質問
Q. 子猫はいつからゴロゴロできますか?耳が聞こえる前でも大丈夫ですか? A. 早い子では生後0〜2日からゴロゴロを鳴らし始めます。この時期はまだ目も耳も開いていませんが、母猫との密着による振動(触覚)でコミュニケーションが成立していると考えられており、心配はいりません。目は生後2週、耳は生後3週ごろから開き始めます。
Q. ライオンやトラは本当にゴロゴロできないのですか? A. 連続したゴロゴロ音は出せません。ライオン・トラ・ジャガーなどパンテラ属の仲間は、舌骨の一部が軟骨のままという喉の構造の違いから、息を吐くときだけに限って唸りに近い音を出すことがあると報告されていますが、家猫のように吸う・吐く両方で途切れず鳴らし続けることはできません。その代わり、遠くまで届く大きな咆哮を出せる喉の構造を持っています。
Q. 要求のゴロゴロにすぐ応えるのは良くないですか? A. 毎回即座に応え続けると、猫にとって「鳴けば要求が通る」という学習が強まり、要求のゴロゴロがエスカレートしやすくなります。決まった時間や区切りで応じるなど、一定のルールを持って接することをおすすめします。
Q. ゴロゴロが急に止まったら病院に行くべきですか? A. 呼吸の異常・食欲低下・元気の消失など他の症状を伴う場合は、早めの受診をおすすめします。ゴロゴロだけが単独で減っている場合は、環境の変化や気分によるものであることも多いですが、1週間以上まったく聞かれない状態が続くようなら、念のため相談すると安心です。
Q. 手術後に猫がゴロゴロしているので、痛みはないと思っていいですか? A. そうとは限りません。ゴロゴロは痛みを和らげようとする本能的な反応であり、痛みがない証拠ではありません。食欲・活動量・触られたときの反応など、他の様子とあわせて確認することが大切です。
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まとめ
猫がゴロゴロ音を出せるのは、舌骨が完全に骨化した家猫を含む中小型のネコ科だけの特徴です。ライオンやトラなど大型ネコ科(パンテラ属)は、遠くまで届く咆哮を出せる代わりに、連続的なゴロゴロを鳴らすことはできません。
生まれたての子猫は、目も耳も開いていない段階からゴロゴロを鳴らし始め、母猫とは音ではなく振動(触覚)で対話しています。要求のゴロゴロには人の赤ちゃんの泣き声に近い周波数が隠れており、飼い主の行動を動かす音響的な仕掛けを持っています。そしてゴロゴロが出なくなったとき、あるいは「鳴っているから大丈夫」と見えるときこそ、他の様子とあわせて注意深く観察することが、愛猫の変化を見逃さないコツです。
ゴロゴロの意味そのものについては猫のゴロゴロの意味とは?4種類の気持ちと仕組み、行動学シリーズとして頭突きの意味・ふみふみの意味もあわせてお読みください。
甘えん坊でゴロゴロが得意な子猫をお探しの方は、Flowens Catの子猫一覧をぜひご覧ください。ラグドールやマンチカンなど、ゴロゴロ好きな品種が揃っています。
参考文献・出典3件
- www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adh9570
- pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19602409/
- pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12363272/



